≪気付き
≫
(ナレーション) 次の日
(ただし) 「まこと、まこと」
(ナレーション) ただしくんの声がします。今日は野球をしようと約束の日。急いで外へ出かけました。
(ただし) 「わるい、1つお願いがあるんだけど。」
(まこと) 「どうしたの?」
(ただし) 「俺達、親友だよな」
(まこと) 「うん」
(ナレーション) でも、一度も釣りを教えてくれたことも、仲間に入れてもらい遊んだこともなくて、今日初めて野球に誘われていました。
(ただし) 「あのさー、最後だから1つ出してくれよ」
(まこと) 「えっ、あの時もう最後ねって言ったのに」
(ただし) 「俺達、親友だろ。だからなっ!」
(ナレーション) 断らないと、もう断らないとと思いながら嫌われたらどうしよう、今度野球誘ってくれなくなったらどうしようそんな事ばかり考えていました。
(ただし) 「なあー、どうなんだよー」
(まこと) 「うん、わかった。本当にこれが最後だからね」
(ただし) 「わかってるって」
(まこと) 「何を出すの?」
(ただし) 「魔法の杖」
(まこと) 「えっ」
(ただし) 「俺も魔法の杖が欲しいんだ。おまえばかりいい思いをして」
(まこと) 「ぼく何もいい思いなんてしてないよ」
(ただし) 「してるだろう。みんなに頼りにされて、お前の周りにはいっつも友達がいっぱい、だからおれも魔法の杖で人気者になって俺の好きなもの欲しいものをいっぱい出すんだ。まこともいっぱい出しただろう?」
(まこと) 「出してないよ何も」
(ただし) 「嘘をつけ!いいから出せよ」
(まこと) 「それは無理だよ」
(ただし) 「お前仲間外れにされたいのか、親友だったんじゃないのか」
(ナレーション) その時に初めてまことくんは気づきました。
まことくんの周りに集まっていたお友たちはまことくんの事が大好きでではなくて、魔法の杖から出てくる欲しい物の為だったと。
(ただし) 「はやく出せ!」
(ナレーション) ただしくんも親友だとは思っていない。ただただ欲しい物の為の嘘。
(ただし) 「出せーーーーーー、出さないならこれを貰う」
(まこと) 「あーーー、だめだよ」
(ただし) 「よこせ!」
(ボキ)
(ナレーション) とうとう魔法の杖が折れてしまいました。
(ただし) 「なんだよ、俺のせいじゃないからな」
(ナレーション) まことくんは悲しくなりました。魔法の杖が折れて魔法が使えなくなった事ではなく、自分がやってきた事がみんなの為ではなく、その時だけのニコニコ笑顔だったこと。
そして、りんちゃんが
(りん) 「全部いらない。まことくんがくれる物全部、ぜーんぶいらない」
(ナレーション) と言った意味が、りんちゃんが泣いていた訳も。
全部まことくんの間違いを教えてくれていたことだったのです。
手に折れた魔法の杖を持ち脇の切株に腰掛けていました。
(祖母) 「まことくんだね」
(まこと) 「あっ、りんちゃんのおばあちゃん」
(祖母) 「こんな所でどうしたの?」
(まこと) 「これ」
(ナレーション) 魔法の杖をおばあちゃんに見せました。
(祖母) 「これは魔法の杖だね。」
(ナレーション) こくりとうなづきました。
(祖母) 「りんにもらったのかい?」
(ナレーション) また小さくうなづきました。
(祖母) 「まことくんは優しい子なんだね。この杖は人を思う心がきれいな子にしか使えないんだよ。お友達みんな幸せにしてあげたの?」
(ナレーション) 今度は静かに頭を左右に振りました。
(祖母) 「そう、悲しいね。まことくんが一生懸命がんばったのにね。」
(まこと) 「うん」
(祖母) 「どうして悲しいのかな?」
(ナレーション) まことくんの目に大きな涙が浮かんでこぼれました。
(まこと) 「ぼく、みんなに嫌われたくなくて」
(祖母) 「そう、まことくんは魔法の杖がなくても前から人気者でみんなまことくんの事大好きだったと思うよ。それを魔法の杖は教えてくれたのかな。いつのまにかやさしいまことくんがどっかにいっちゃったのかな」
(ナレーション) おばあさんはゆっくりと優しくまことくんの手をさすりながら話してくれました。
(祖母) 「また、元気になったらりんとも遊んであげてね。淋しがっていたから」
(まこと) 「うん」
(ナレーション) 夜なんだか眠れませんでした。
思い出すのは大きな木の丘でりんちゃんと遊んだ事。
(まこと) 「明日りんちゃん家へ行こう」
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